専門学校入る直前、だから23〜24くらいの数カ月間、金のために12時間勤務交代制の派遣社員として有名メーカーの工場で働いていた。
金にはなったが、最悪の寄せ集めの派遣社員と、ノルマを達成するために派遣社員をチリほども気にしない会社の体質に、社会の底辺を見た気がした。
その工場は20代後半から60までの、何かしら理由があって一円でも多く金を稼ぎたいが定職を持たない人間が大勢いた。リストラ、低学歴、フリーターの集団である。「下層」を体感できるテーマパークみたいなもんだった。ここにはロジカルなんて言葉が無かった。派遣同士で謂われなく罵倒しあったり、社員からされたりしていた。
なぜなら、とことんまで人の指示を聞けない人間ばかりだったから。考えた通りに体を動かせない人ばっかり。嘘をつき、とにかくサボろうとする人間を、犬や幼児に叩き込むような教え方をせざるをえなかったのだと思う。良い印象を持った人間は皆無であり、印象的でない人も少なかった。
もちろん、金が欲しくてその職場にやってきた自分も、周りの一部常識人からすればまた然りな人間だったろう。特に欠陥だらけだしな。俺は。
そこで出あった人の一人が地元の駅で歩いているのを見た。
ちなみに、そこにいた人の印象ワーストランキングで2位に入る人である。
どうやら僕の地元と同じらしく、社会人やってるときから朝っぱらたまに見かけることがあり、何だったら日本橋でCD漁ってるときにも偶然見かけたことがある。もしかしたら僕を視認してるかもしれないけど、向こうから何のアクションもない。あった困るけど。
工場では近くで勤務してるときには喋らないこともない、という人だった。僕が苦手意識を持っていたことは、相手にもばっちり伝わってたのだろう。
どういう人かと言えば、自慢話でしか自分を表現できない人だった。
「自分には知り合いが沢山いて」「こういう有名人とどこで酒を飲んだ」
「彼女はいるが、セックスフレンドも数人いる」
「こないだ東京の友達に会いにいき、そこでやった女は」
「服屋を沢山知っている」「和柄の良い店を教えてやろう」
とかまあ、そんな感じ。
年齢は、当時34歳だったから、今40歳前くらいだろうか。
建設的な話をしたことがない。勤務時間に延々話しかけられ、鬱陶しくなって「ああ、はい」「そうなんすか」と生返事を繰り返してると「もうええ、暗いわお前、あかんで」と『暗い』を連発してくる。つまらない話だったし、つまらない人間のように感じた。
ある日の勤務で『どういう友達と過去つるんでたか』みたいなところから「自分はこういうところにいるがわりと賢い」というような主張をし始めた。
「俺はねえ、社長になるから」
と目を見ながらニヤっとした。
直前に話してたことも含め、僕はこの人を完全なアホだと思ってたし、何も好きなところなど無かったが、この瞬間だけ「あ、何かと考えてる人なんや」と少しだけ見直した。
「すごいすね、いつごろに?」
「いや、全然決めてないけど」
「何の事業立ち上げるんですか?」
「……え?」
「いや、ビジネスプラン、詳しく言わなくていいですけど」
「知らん、それは」
会話が終わった。そしてさっきよりも大きく見下した。
ここが下層のテーマパークってことを忘れていた。
相変わらず、社長になった様子もなく、地元をうろうろしているその人を見るたびに「目標持ってやることやろう」と改まる。
いや、社長になってるかもしれんけど。
その人「友達多い」って自慢すげえしてたのに、誰かと歩いてる様子も見たことないし、彼女と歩いてるとこも見たことないのよな。嘘じゃないんだろうけどさ。
印象だけで見下してしまう人種が、世の中にはいるような気がした時期だった。